Column

AI文字起こしが、
そのまま議事録にならない理由

会議をZoomで録画して、AIで文字起こしまではできた。ところが出てきたテキストを開いた瞬間、誰も読まないことが分かる。あの徒労感の正体と、そこから「読める記録」に変えるまでの手順を書きます。

60分の会議は、文字にすると約9,000字になる

まずここが問題の入り口です。人は1分におよそ150字話します。60分の会議なら9,000字。新書の1章分くらいの分量が、見出しも段落もない状態で吐き出されます。

この9,000字を最後まで読む人は、社内にいません。私も読みません。読む必要がないからです。会議の記録に求められているのは「何が話されたか」の全部ではなく、「何が決まって、誰がいつまでに何をするか」だけです。

つまりAI文字起こしのアウトプットは、議事録ではありません。議事録を作るための素材です。ここを取り違えると、便利なはずのツールが、読まれないファイルを量産する装置になります。

AIが特に苦手な4つのこと

WhisperやNottaの精度はかなり上がりました。それでも、実際の業務で使おうとすると同じところで引っかかります。

1. 社名と人名

これが一番厄介です。AIは音を確率で文字に変換するので、辞書にない固有名詞は近い音の一般語に化けます。「ライテック」が「ライト付く」になり、「諏訪」が「そわ」になる。取引先の社名を間違えた議事録を配ると、内容以前の問題になります。

2. 同音異義語

「発注」と「発中」、「所定」と「書定」、「稟議」と「輪議」。文脈を知らないと選びようがない場面で、AIは平然と間違ったほうを選びます。しかも自然な日本語として出てくるので、読み飛ばすと気づきません。

3. 誰が話したか

話者分離の機能はありますが、複数人が同時に話す、相槌が挟まる、リモートで音声が途切れる、といった実際の会議では簡単に混線します。「賛成です」が誰の発言か分からない記録は、後で揉めたときに役に立ちません。

4. 言い淀みと言い直し

人の話し言葉には、書き言葉にない要素が大量に入ります。「えー」「あのー」「まあ」、途中で言い換えた前半部分、結論を言う前の長い前置き。これが全部そのまま文字になります。

実際、こういう状態のテキストが出てきます。

BEFORE|AI文字起こしそのまま

えーっと、じゃあその、来月の、あの発中の件なんですけど、まあ前回もちょっと話に出たんですが、やっぱりその、ライト付くさんのほうから、あの、見積もりが来てないので、そうですね、はい、来週いっぱいくらいまでには、まあ確認しておきたいなと、思ってはいます。

言っていることは一行で済みます。

AFTER|仕上げ後

来月の発注について、LIGHTECHからの見積もりが未着。来週末までに確認する。

元の181字が、44字になりました。情報は減っていません。むしろ「発中→発注」「ライト付く→LIGHTECH」の誤りが直り、期限が明示されたぶん、記録としての価値は上がっています。

読める記録に変えるまでの手順

私が実際にやっている順番で書きます。これは「上から順に全部直す」のとは違います。上から直すと必ず途中で力尽きます。

まず、全部を読もうとしない

9,000字を頭から直すのは無理です。最初にやるのは、決定事項とタスクだけを拾う作業です。テキストを検索して「決めた」「やります」「までに」「お願いします」あたりの語を追うと、意思決定の場面はだいたい引っかかります。

ここで抜き出した5行から10行が、議事録の本体になります。残りの8,000字以上は、後から参照するための保管用テキストとして残しておけば十分です。

固有名詞は、リストにしてから一括で直す

会議に出てくる社名・人名・製品名を先に書き出して、置換リストを作ります。「ライト付く→LIGHTECH」のように。同じ誤変換は文書全体で同じように起きるので、一括置換が効きます。1件ずつ直すより10倍速い上に、直し漏れが出ません。

この作業は毎回同じ顔ぶれの会議なら使い回せます。2回目からの手間が激減します。

話し言葉を書き言葉にするのは、最後でいい

順番を間違える人が多いところです。先に文章を整えてから内容を選ぶと、捨てる部分まで丁寧に磨くことになります。捨てる判断を先に、磨く作業を後に。これだけで作業時間が半分近くまで落ちます。

決定事項には、必ず担当者と期限をつける

会議中には言われなかったとしても、「誰が」「いつまでに」が空欄の項目は、あとで必ず宙に浮きます。分からなければ「担当:未定(次回確認)」と書く。空欄のまま放置するより、はるかに機能します。

その録音、AIにかけていい会社ですか

手順の話をする前に、飛ばせない確認があります。会議の音声を社外のAIサービスに通していいのか、という問題です。

私は商工会などでセミナーの講師をしています。そこで参加者の方に聞いていて、予想外だったことがあります。無料版のMicrosoft Copilotなら業務利用を許可している会社が、思っていたよりずっと多い。一方でChatGPT、Claude、Geminiは禁止という会社が、いまだにかなりの数あります。

理由を聞くと、だいたい同じ答えが返ってきます。ひとつはセキュリティ。もうひとつは、どこまでAIに任せてよくて、どこから任せてはいけないのか、その線引きが社内で決まっていないことです。

後者のほうが根が深いと思います。ルールが作れないから、とりあえず全部禁止にしておく。あるいは、すでに導入しているツールの範囲でだけ黙認する。判断を先送りした結果としての「Copilotだけ可」なのだろうと感じています。

ですから、会議の録音を扱うときは順番があります。

  1. 自社が許可しているツールはどれか確認する
  2. その会議の内容が、社外サービスを通していい性質のものか判断する
  3. 判断がつかない録音は、AIにかける前に上長か情報システム部門に確認する

取引先の価格や人事の話が入った音声を、ルールを確認しないまま外部サービスに投げてしまうと、議事録の精度どころの話ではなくなります。急いでいるときほど、ここを飛ばしがちです。

どこまで自分でやり、どこから外に出すか

正直に言うと、月に1回か2回の会議なら、自分でやったほうが早いです。内容を知っている人間が直すのが一番速く、他人に説明するコストがかかりません。

外に出す価値が出てくるのは、次のような場合です。

  • 毎週の定例があり、議事録作成が固定の業務になっている
  • インタビューやセミナーの音声を、記事や配布資料として世に出す
  • 1時間を超える長さで、そもそも読み返す気力が湧かない
  • 専門用語や社名が多く、誤変換の修正だけで時間が溶ける

特に3つめは軽視されがちです。「自分でやればタダ」と考えて、結局2週間放置されている録音データを、私は何度も見てきました。作られなかった議事録の価値はゼロです。

まとめ

AI文字起こしは、議事録づくりの前半を肩代わりしてくれます。録音を聞き直して手で打つ作業がなくなったのは、それだけで大きな進歩です。

ただ、後半は残っています。何を捨てるか決める。誤変換を直す。担当と期限を書く。この判断は、会議の中身と社内の事情を知っている人間にしかできません。

AIに前半を任せて、人が後半をやる。今のところ、これが一番速いやり方だと思っています。

よくある質問

文字起こしの精度を上げる方法はありますか

録音の質を上げるのが一番効きます。マイクを話者に近づける、リモートなら各自がヘッドセットを使う、会議室のエアコンの真下を避ける。この3つで誤変換はかなり減ります。ソフトを変えるより効果が大きいことが多いです。

録音データは、そのまま渡しても大丈夫ですか

機密情報を含む会議は、扱いを決めてから渡してください。当サービスでは初回のお問い合わせフォームにファイル添付をつけていません。内容を確認したうえで、安全な受け渡し方法を個別にご案内しています。

会社でChatGPTが禁止されています。それでも頼めますか

頼めます。むしろ、そういう会社のほうがご相談は多いです。社内でAIツールが使えないぶん、作業そのものを外に出すという判断になります。その場合も、どのデータをどう受け渡すかは事前に取り決めてから進めます。

要約だけ欲しい場合も頼めますか

できます。「決定事項とタスクだけ1枚に」「社内共有用に800字で」といった形でご指定ください。用途が決まっているほど、仕上がりは正確になります。

その録音、文字のまま眠っていませんか

AI文字起こしの修正から、記事化・議事録化まで承ります。音声の長さと用途をお知らせいただければ、対応可否と概算料金、納期の目安まで無料でお答えします。

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