Column

システムは仕様通りだった。
壊れたのは契約のほうだった

システムを入れたのに現場が楽にならない、という相談をときどき受けます。原因がシステムの外側にあることが、けっこうあります。私が数年関わって、最後まで直せなかった話を書きます。

100と約束して、30しか来ない

ある通信販売の裏側にいました。商品を仕入れて、注文を受けて、倉庫から出す。その仕組みを回す側です。

販売が始まる前に、仕入先と条件を詰めます。今月はこの商品を何個まで用意できるか。担当者が先方に出向いて確認し、「100個までなら生産して納品できます」という回答をもらう。その数字をもとに、私たちはシステムに商品マスターを登録します。商品コード、在庫数、価格、色、サイズ。在庫上限は100で設定されます。

ここまでは何も問題がありません。システムは正しく組まれています。

ところが販売が始まってしばらくすると、こういう連絡が来ます。

仕入先からの連絡

ごめんごめん、店舗のほうで70個売れちゃったから、30個ね。ごめんね

仕入先には実店舗があります。そこで売れるなら、その場で売上が立ちます。先に押さえておいた100個のうち70個が、店頭で消えている。

一方、こちらのシステムは100個で動き続けています。31人目のお客様の注文も、50人目の注文も、正常に受け付けます。在庫があることになっているからです。

謝るのは、いちばん遠い場所にいる人

結果として何が起きるか。31人目以降のお客様に、欠品の連絡をしなければなりません。

お客様は当然怒ります。注文できたのに届かない、というのは、最初から買えないより不快です。そして、その電話を受けるのはコールセンターです。

ここで整理しておきたいことがあります。

  • システムは仕様通りに動いた。バグはひとつもない
  • マスターを登録した側も、指示通りの数字を入れただけ
  • 条件を詰めた担当者も、口頭では確かに100個の合意を取っている
  • 仕入先も、法的に何か違反したわけではない
  • それでも、お客様は怒っている

誰も明確に間違えていないのに、結果だけが壊れています。そして謝るのは、原因からいちばん遠いところにいる人です。

力関係が、修正を止める

なぜ直らないのか。これも一種類の理由ではありません。

まず、仕入先に強く出られないという事情があります。継続して商品を出してもらう相手ですから、「約束が違う」と正面から言えば関係が悪くなる。担当者の年齢が若いと、なおさら言いにくい空気になります。

そしてもうひとつ。コールセンターの側は、業務を委託されている立場でした。委託元から毎月まとまった金額を受け取っています。「この契約の設計そのものがおかしい」と言うのは、自分たちの仕事の枠を超えます。言ったところで決定権がありません。

つまり、問題を一番よく見ている人たちに、直す権限がない。権限を持っている人には、問題が数字としてしか届かない。この構図がある限り、現場がどれだけ疲弊しても仕組みは変わりません。

私が関わっていた期間、これは最後まで解決しませんでした。正直に書いておきます。

システムを入れる前に、決めておくべきだったこと

いま同じ現場に入るなら、システムを作る前に確認します。技術の話ではなく、約束の話です。

  1. 上限は誰が保証しているのか。口頭か、書面か。守られなかったときに何が起きるか決まっているか
  2. 在庫の実数を、いつ・誰が更新するのか。更新しない運用になっていないか
  3. 約束が崩れたと分かる仕組みがあるか。気づくのがお客様のクレームだとしたら、それは手遅れです
  4. 崩れたときに謝る人と、崩した人が同じか。違うなら、その負担をどう埋めるか決めておく

4番目が肝心です。謝る人と原因を作る人が別だと、その仕組みは必ず現場を削ります。しかも削られている量は、上には見えません。クレーム件数としては上がっても、それが「契約設計の失敗」だとは読まれないからです。

安全側に倒す、という手もあった

もっと単純な打ち手もありました。約束の数字をそのままシステムに入れないことです。

100個と言われたら、システム上は70個で受け付ける。残り30個は、実際に納品を確認してから開放する。売り逃しは出ますが、欠品の謝罪はほぼ消えます。

売り逃しと信用の低下、どちらが高くつくか。数えれば答えは出るはずでした。ただ、当時それを数える資料を、私は作れていませんでした。「現場がしんどい」という感覚を、判断できる数字にして上に届ける。そこまでが仕事だったのだと、今は思います。

まとめ

システムの話をしているつもりで、実は契約の話をしていることがあります。今回の件は完全にそれでした。

マスターの登録も、在庫の引き当ても、注文の受付も、全部正しく動いていました。それでもお客様は怒り、現場は謝り続けました。仕組みの精度ではなく、仕組みの前提が壊れていたからです。

業務改善の相談を受けるとき、私はまず「その数字は誰が保証していますか」と聞くようにしています。そこが曖昧なまま作った仕組みは、動けば動くほど現場を追い込みます。

まず、手元の作業を軽くするところから

仕組みの話は簡単には変わりません。それでも、手元のExcel整理や文書の作成にかかっている時間なら、今日から減らせます。小さな作業を1件から承ります。

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